指に着けた瞬間が本番。長くこの仕事をして気づいた、本当に良い指輪の条件
指に着けた瞬間が本番です
ボクが好きな話があります。
車のデザイナーが言った言葉です。「停まっている時のデザインだけではダメだ。走っている姿もデザインしなければならない」
これはジュエリーにも全く同じことが言えます。
指輪はケースの中に飾るものではありません。指に着けるものです。だから、指に着けた時に一番美しく見えるように作らなければいけない。ボクはずっとそう考えてきました。
ケースの中では綺麗なのに
ジュエリーショップで指輪を選ぶ時、ケースの中に並んでいる状態で見ますよね。あの状態だと、どれも綺麗に見えます。
でも、実際に指に着けてみると「あれ?」と思うことがあります。
ケースの中では綺麗だったのに、指に着けた途端にしっくりこない。そういう指輪が実は少なくないんです。
長いことこの仕事をしていると、それがすぐにわかります。アームの形、爪の位置、全体のバランス。指に着けた時にどう見えるか、どう感じるか。ケースに入れた状態と指に着けた状態では、見え方が全然違います。
でも買う側にはわかりません。だからこそ、ボクは最初からそこを考えて作っています。
お客さんに教えてもらったこと
ずいぶん前の話です。展示会で、指の皮膚が見えるデザインの指輪をお客さんにおすすめしたことがありました。
その時に言われた一言が今でも頭に残っています。
「皮膚が見えると産毛も見えるし、あんまり好きじゃないの。」
その言葉を聞いてから、ボクはそういったデザインの指輪を作らなくなりました。勧めることもなくなりました。
それ以降、もしお客さんがそういったデザインを希望された時は、必ずその話をするようにしています。気づかなかった視点を教えてもらったんです。
指輪を実際に使う人の感覚には、作り手が気づけないことがあります。だからボクはお客さんの声をずっと大事にしてきました。
ダイヤモンドと枠はセットで考える
指輪を選ぶ時、まずダイヤモンドを決めてから枠を選ぶ、という順番で考える人が多いです。
でもボクの考え方は違います。ダイヤモンドと枠は最初からセットです。このダイヤモンドにはこの枠、という組み合わせで設計しています。
なぜかというと、同じダイヤモンドでも枠の設計次第で輝きがまったく変わるからです。光の入り方、反射の仕方、指に着けた時の存在感。全部変わります。
ダイヤモンドのスペックばかり気にする人がいますが、正直に言うと、カット以外のグレードはそこまで神経質にならなくて大丈夫です。それよりも枠との組み合わせの方がよっぽど大事です。
良いカットのダイヤモンドを、そのダイヤモンドのために設計された枠に乗せる。それだけで見違えるように美しくなります。
地金はしっかり使う
もう一つ、ボクがこだわっていることがあります。地金の量です。
コストを下げるために地金を薄くする指輪があります。見た目はほとんど変わりません。でも着けた時の感覚が全然違います。
フィット感、安定感、毎日着け外しをする時の感覚。そういったところに地金の量は直接影響します。毎日着ける指輪だからこそ、そこは妥協したくないんです。
毎日着けていられる指輪が本物
婚約指輪は特別な日だけに着けるものではありません。毎日着けていられる指輪が本当に良い指輪だとボクは思っています。
着けるたびに「良いな」と思える。着け外しのたびに気持ちいいと感じる。10年後も20年後も変わらずそう思ってもらえる。そういう指輪を作りたいといつも考えています。
ショーケースの中で一番綺麗に見える指輪が、必ずしも一番良い指輪とは限りません。指に着けた瞬間が本番です。その瞬間のために、ボクは一本一本作っています。