せっかち社長から学んだこと

せっかち社長との出会い
卸業時代、ボクの社長はとにかくせっかちだった。歩くのも、ご飯を食べるのも、仕事も、帰るのも、すべてが人より早い。最初はついていくのがやっとだった。
特に、社長の歩くスピードは尋常ではなかった。どんどん先へ行ってしまうので、仕事を始めた頃は数日で足が棒のようになってしまった。
ひどい時には足の裏を捻挫して歩けなくなったこともあった。今思えばただの運動不足だったのだが、当時のボクはまだ二十歳になったばかり。それほど、社長がせっかちだったということだ。
仕入先への容赦ない催促
当然ながら、仕入先への要求も厳しかった。買った商品がすぐに手元にないと、
「あれ、まだできねーかな?ちょっと電話かけてくれ」
とボクに言ってくる。仕入れをした時に「出来上がりまで2週間かかります」と言われているにもかかわらず、次の日には電話をするのだ。
当時のボクには、それが全く理解できなかった。現物を仕入れるならともかく、石と枠が別々なので作らないといけないし、当然ながら時間がかかる。
「それが分からないのかな」と思いながら電話してみると、案の定、「まだ出張中で帰ってもいないのでできませんよ」と言われてしまう。
すると、社長は電話を代わり、何やら話してから電話を切る。そんなことを繰り返していると、1週間後には商品が出来上がっているのだ。「なんで?」と、当時は不思議だったが、今なら分かる。
時間は金なり、粘り強さこそ力なり
業者さんは思ったより忙しくなく、職人さんも暇なのだ。もちろん、忙しい人もいるにはいるが、業者もお抱えの職人さんというわけではないので、外注先になる。
そういった職人に業者は仕事を取ってくる場合が多く、こちらが大急ぎと伝えると、業者はその職人を脅したりすかしたりして優先的に仕事をさせるのだ。
職人さんは工賃仕事だから、本当に寝る間も惜しんで仕事を詰め込めるだけ詰め込む。ボクの父親も職人だったので、毎日夜中や朝方まで仕事をしていた。
今は本当に職人さんが少ないので、そんなことは少ないと思うが、当時はそれが当たり前だった。
「どんなことでも粘り強い方が強い」
というのはこのことで、社長は毎日のように電話をかけていた。
恐らく、注文した商品が手元にないと商売にならないので、一刻も早く商品が欲しかったのだろう。銀行にお金を預けると金利が付くが、商品を作っている最中は無金利でお金を預けるようなものなのだ。
だから、ボクも注文が来ると毎日のように電話をかけて「早くしてください」と言い続けている。