宝石屋に指輪の値段を聞いてはいけない理由 プロが本当のことを言わない裏話
専門家にジュエリーの値段を聞かないで 宝石屋が本当の価値を言わない理由と上代下代の裏話
宝石屋をして30年になりますが、友人や知人、親戚の集まりなんかでも、こんな質問をされることがよくあります。
「昔、百貨店でこの指輪を買ったんだけど、これは良い物なのかな」
「この指輪、いくらくらいしたと思う?」
軽い気持ちで聞いてこられる方もいますし、少し自慢したい気持ちがあるのかな、という時もあります。長年大切にしてきた指輪だからこそ、プロの目にはどう映るのか気になるのは当然のことだと思います。
でも、ボクはそういう時、絶対に本当のことは言いません。適当にごまかしているわけじゃなくて、プロとしてあえて口を閉ざしている、ちゃんとした理由があるんです。
本職の人間はパッと見た瞬間にすべてを見抜いてしまう
なぜ本当のことを言わないのかというと、ボクたち本職の人間は、その指輪をパッと見た瞬間にだいたいのことが分かってしまうからです。
毎日無数のジュエリーに触れていると、手に取らなくても、見ただけで地金のおおよその重さや、ダイヤモンド・カラーストーンの品質が経験上すぐに分かります。地金が何グラム使われていて、石のグレードがどのくらいで、職人の工賃がどれくらいか。つまり、その指輪がいくらで作られたものなのか、大まかな見当が一瞬でついてしまうんです。
プロの目はごまかせません。でも、頭の中で弾き出したそのリアルな数字をそのまま伝えても、聞いた方が残念がる結果になることがほとんどなのです。
業界の裏側 上代と下代という価格の仕組み
ここで少し、宝石業界の価格の仕組みについてお話しします。
ボクたち業者の間では、百貨店や路面店でお客様に売られている販売価格のことを「上代」、ボクたちがお店に納品する価格のことを「下代」と呼んでいます。
例えば、百貨店で10万円の上代で売られている指輪があるとします。ボクたちはその下代がいくらなのか、だいたい分かっています。
さらに厳しいことを言ってしまえば、百貨店で10万円という価格帯のものは、ボクたちの感覚からするとアクセサリーの延長であり、孫の代まで受け継ぐような一生ものジュエリーと呼べるかどうか、正直微妙なラインだったりします。
100万円の値札が付いている高級品であっても、基本的には同じ構造です。100万円の上代の裏側にある本当の下代がどれくらいなのか、本職なら一瞬で計算できてしまいます。
本当の価値を伝えることが誰の幸せにもならない理由
これはどんな商売の仕組みとして当たり前のことです。一等地の家賃、丁寧な接客をする販売員の人件費、広告費。それらが上乗せされて上代と下代に大きな差が出るのは、ビジネスとして至極まっとうなことなんです。
でも、嬉しそうに指輪を見せてくれた方に「本当の下代はこれくらいで、品質としてはそこまで良いものではないですよ」と正直に伝えて、一体誰が幸せな気分になるでしょうか。
プレゼントしてくれた人の顔が浮かんで悲しくなるかもしれない。自分の買い物が失敗だったと落ち込んでしまうかもしれない。誰も得しませんよね。
だからボクが返す言葉はいつも一つです。
「良い物ですね。」
この一言だけです。相手の思い出や気持ちを壊さないために、本当のことは話さないのがプロとしての正解だと思っています。ですからボクには、ご自身の宝石の本当の価値や値段は聞かない方がいいですよ。
本当の値段を知りたいなら、宝石屋ではなく質屋さんへ
ただの興味本位ではなく、明確な理由があって今の本当の価値を知りたい場合はどうすればいいか。例えば遺品整理で手放すことを考えていたり、資産としての買い取り価格を把握したいという場合です。
その時は、ボクのような作り手・売り手ではなく、質屋さんや買い取り専門店に行くことをおすすめします。
質屋さんは、どんな思い出が詰まった指輪であろうと、現在の相場に基づいた地金の重さと宝石の客観的なグレードだけでドライに査定します。良くも悪くも、現在の確実な資産価値を正直に教えてくれるはずです。
宝石の一番の価値は、身につける人の思い出と感情
プロの目から見た品質や下代の価格というのは、あくまで物質的な価値に過ぎません。
宝石というのは、値段や専門的な評価よりも、あなたがそれを身につけてどう感じるか、どんな思い出が詰まっているかが一番大切だとボクは思っています。
初めて買ってもらった時の喜び、大切な記念日の記憶、お出かけ前のワクワクする気持ち。そういった感情こそが、ジュエリーを本物の宝物にしてくれるんです。
数字には表れないその気持ちを何よりも守りたい。だから今日もボクは、笑顔で「良い物ですね」とお答えしていまs(^^)