宝石屋がジョニー・アイブの指輪を、プラチナで作ったら
ジョニー・アイブが作った「全部ダイヤモンドの指輪」を知っていますか
Appleのデザイン責任者として、iMacからiPhoneまで手がけたジョニー・アイブ。彼がマーク・ニューソンと共同でデザインした指輪が2018年にサザビーズのオークションに出品されました。その名も「THE (RED) DIAMOND RING」。
指輪のリング部分そのものを、人工ダイヤモンドだけで作ったというものです。2000〜3000カットという工程を経て、ダイヤモンドをリング状に加工しています。落札予想価格は1700万〜2800万円でした。
チャリティー目的のオークションで、売上はアフリカのHIV/AIDS対策支援に寄付されます。ジョニー・アイブらしい、ただの高級品では終わらない仕事です。
宝石屋として、どうしても気になった
これを見たとき、純粋に作ってみたくなりました。ジョニー・アイブのデザインはシンプルに見えて見どころが多く、iPhoneなどで追求されてきた仕上げへのこだわりや、素材そのものを活かした硬質でも柔らかい造形に、宝石屋として強く惹かれました。
宝石の世界でダイヤモンドといえば「輝く石」として扱うのが普通です。それを構造材として使い、指輪そのものに仕立てるという発想は、ジュエリーの常識を完全に無視しています。だからこそ面白い。
チャリティー目的の一点物なので実用性は度外視ですが、このデザイン哲学をプラチナで再現したらどうなるかを試してみたくなったのです。
作ってみると、想像以上に難しかった
最初に作ったものは小さすぎて存在感が出ませんでした。サイズを変えて作り直し、仕上げも何度も見直しました。結果的に3回作り直して、半年かかって完成したのが「極 type JI」です。
一番苦労したのはエッジの処理です。iPhone5のサイドフレームに施されたダイヤモンドカットが連続するような面取りを、地金で潰さずに残すのは想像以上に難しい作業でした。
地金は磨きの段階でエッジが丸くなっていきます。細かく面取りすればするほど、磨きで消えやすくなる。エッジを増やすことと、仕上げで残すことは相反するのです。限界まで試行錯誤して、地金で作れる精一杯のエッジを残しました。
車で言えばコンセプトカーを市販モデルに落とし込んだ感覚に近いです。似ているけれど、結構違う。それが正直なところです。
プラチナで作れば、普段使いできる結婚指輪になる
全部ダイヤモンドで作ったオリジナルは、芸術品として美しいですが日常使いには向きません。ダイヤモンドは硬度が高い一方で脆く、欠けやすい素材です。毎日使う結婚指輪として考えると、現実的ではありません。
プラチナで作ることで、耐久性と着け心地を確保しながらデザインの本質を残せます。裏を抜かず無垢で仕上げ、しっかりと重さと存在感を持たせました。マット仕上げと鏡面仕上げの配置は相当考えました。
この2つのメリハリが出ないと、エッジが引き立たないからです。職人の仕上げ精度がそのまま完成度に出るデザインなので、細部の再現には妥協できませんでした。
ダイヤモンドは3石だけ埋め込んでいます。アクセントとして十分だと判断しました。
趣味で作った指輪が、ブランドになりました
正直なところ、最初は完全に趣味です。誰かが同じものを作るだろうと思っていましたが、調べてみると同じアプローチで作っている人は見当たりませんでした。
作り終えてみると、ジョニー・アイブのデザイン哲学と宝石屋のこだわりが重なって、ブリリアントジュエリーらしい一本になったと思っています。
こういう、誰に頼まれたわけでもないけれど作らずにいられなかった指輪が、結果的にブランドの軸になっていくものだと感じています。自分用にも1本作りましたし、毎日着けていますよ