翡翠の思い出 第1話「帯留めと紫の台紙」
帯留めって何ですか?
宝石の仕事を始めた頃、帯留めというものをまったく知りませんでした。
ある日、社長が仕入れてきた商品を見せてくれました。「これなんですか?」と聞いたら帯留めだと教えてくれましたが、見たことも聞いたこともない。説明されても、正直なところまったく想像がつきませんでした。
ジュエリーといえば指輪やネックレスが花形です。帯留めは着物文化の産物で、どこか古めかしくて地味な商品、というのがボクの第一印象でした。

台紙が変わると、商品が変わる
翡翠の帯留めは最初から紫の台紙に乗っていました。翡翠と紫台紙の組み合わせは業界では珍しいものではなく、翡翠を飾るときの定番です。白い台紙では翡翠の色が映えない。紫や黒の台紙に乗せてはじめて、あの独特のグリーンが生きてくるんです。
面白かったのは、業者さんの反応でした。白い台紙の状態では「これは売りに行けない」という雰囲気がありました。ところが紫の台紙に乗せた途端、「これなら売れる」と展示会に持っていってくれるんです。台紙が変わっただけで、商品への向き合い方が変わる。宝石の見せ方というのは、それほど大事なんだと気づかされました。

展示会という場所
展示会というのは、路面店がホテルなどの一室を丸ごと借り切って開くものです。仕入れ業者さんが商品を持ち込み、路面店のオーナーはお客さんの好みを熟知していて、業者さんが持ち込んだ商品の中から「これはあの人に合う」と判断して勧めていく。そういう役割分担の場です。呉服屋さんの展示会に出入りする業者さんが、帯留めをよく売ってくれていました。
板翡翠という素材
帯留めに使う石は、板状に加工した翡翠が多かったです。
翡翠の鉱物名はジェダイトといい、グリーン以外にもラベンダーなど様々な色があります。その中でも最高品質とされるのが「ろうかん」と呼ばれるもので、透明感が高く発色も鮮やか。主に指輪やペンダントに使われます。板翡翠はそれとは別の加工ですが、品質が悪いわけではなく、ただ市場にあまり出回らない素材です。
板翡翠の良し悪しは、とろりとした質感と発色の鮮やかさ、そしてインクルージョン(内包物)や色ムラの少なさで決まります。社長は品質が良くて仕入れ値の安い板翡翠をどこからか見つけてくるのが上手で、次々と帯留めを作っていました。完成品の小売価格は50万円から100万円クラスがメイン。それが、作るとすぐ売れていきました。
台紙一枚が教えてくれたこと
帯留めが何かも知らなかったボクが、気づけば「台紙の選び方で商品の運命が変わる」と実感するようになっていました。その感覚は、今もブリリアントジュエリーで宝石を見せるときの基準になっています。