卸業で培った商才 - 社長の言葉を胸に、売り方を変える

卸業時代の経験が今の仕事の礎
今の仕事のほとんどは、卸業をしていた時に身につけたものだ。
それ以外といえば、インターネットを使ったことくらいだろうか。しかし、インターネットを使った点にしても、昔社長が言っていた「物が売れなくなった時は、売る物を変える。売り方を変える。売り先を変える。」という言葉を実践しただけに過ぎない。
そういう意味では、やはり卸業時代に培った経験が、今の仕事の礎になっていると言っても過言ではないだろう。
常に新しい商品を求めて
卸業時代、商品の仕入れは重要な業務の一つだった。
当時の取引先は業者ばかりで、新しく作った商品を持って売りに行ったり、逆に商品を仕入れたり、委託販売をしてもらったりしていた。しかし、売れるのは常に新商品ばかり。「今さっき出来た物なんです!」という売り文句は、業者にも響き、信用して買ってくれる。
そして、業者も同じようにエンドユーザーに売るため、どうしても新商品が優先的に売れていく。売れ残りは不良在庫となり、利益を圧迫する。そのため、常に新しい商品を開発し、仕入れ続ける必要があった。
社長からの問いかけ - 仕入れの最適化
しかし、仕入先は社長と長年の付き合いがあるところが多く、断るのが難しい商品でも、情に流されて仕入れてしまうことがあった。それを知っていた社長は、ある日ボクにこう尋ねた。
「君なら仕入れをどれくらいまで抑えることができる?」
毎月、仕入れの度に「また買っちゃったよ…」と呟きながら支払いをしているのを知っていたし、二人だけの小さな会社だったので、仕入額や仕入先、売上なども全てオープンにしてくれていた。だから、仕入れた商品を「これ売れます?」と社長に聞くのも日常茶飯事だった。
そういった商品は、社長が顔の効く取引先に無理やり売ることが多かったが、それは決して褒められた売り方ではなかった。
社長がボクに仕入れを任せた理由は二つあった。一つは、ボクなら情に流されずに仕入れができると考えたからだ。
社長が仕入先と直接交渉すると、どうしても情が入り、相手の言いなりになってしまうことがあった。しかし、ボクは仕入先との繋がりが薄いため、情を捨てて冷静に判断できる。もう一つは、仕入れの窓口をボクに一本化することで、仕入先が社長ではなくボクにセールスをするように仕向けたかったからだ。
ボクが不要だと判断した商品は仕入れないようにすることで、無駄な仕入れを減らす狙いがあった。
情を捨て、仕入れを最適化
社長は、ボクに仕入れを任せると決めたら、一切口出しをしなかった。販売に関しても、ボクが売れると言えば、ボクに任せてくれた。もちろん、不良在庫は出てしまったが、それについても何も言わなかった。
今考えると、本当にすごいことだと思う。ボクに同じことができるか、自信がない。
社長がボクに仕入れを全面的に任せてくれた結果、当初の目的通り、仕入れ額を大幅に抑えることができた。当時の売上は月400万円ほどだったが、仕入れは600万円ほどあった。在庫がないと商品の回転が悪くなるため、しばらくはそれでも良かったが、そのままでは赤字になってしまう。
そこで、ボクが仕入れを引き継ぎ、仕入れ額を半分まで減らすことに成功した。
小売への転換、そして新たな販路開拓
しかし、卸業の利益率は低く、100万円の売上に対して利益は20万円程度。400万円売り上げても、利益は80万円にしかならない。
そこから家賃や光熱費、社長とボクの給料を支払うと、ほとんど残らない。社長の個人資産を持ち出すことも多かった。
そこで、ボクは利益率の高い小売業に転換することを決意した。この話はまた別の機会にするとして、華やかな宝石業も、卸売だけでは儲からないのが現実だ。
そこで、社長とボクは新しい取引先の開拓に乗り出した。その結果、一社だけで卸売全体の売上をカバーできるような取引先を見つけることができた。
それに伴い、仕入れ額も増えたが、ほとんどが売れたため問題はなかった。在庫も抱えすぎると売りたい時に売れないため、バランスを考えながら仕入れを行った。
それ以来、仕入先もボクと対等に話をしてくれるようになり、一人前の取引先として認めてくれるようになった。
売上と利益が増えるにつれて、通常の取引先向けの商品も作れるようになり、さらに売上は伸びていった。社長の言葉を借りれば、「売り先を変える」ことで売上を上げたのだ。