エメラルドのオイル処理とは?無処理の石を実際に見たプロが解説
エメラルドの婚約指輪や結婚指輪を検討していると、「オイル処理」「ノンオイル」という言葉を目にすることがあります。 同じエメラルドでも、処理の有無で価値も見え方も大きく変わるため、購入前に知っておいて損はありません。
宝飾卸として長年業界に携わってきた経験から、オイル処理の仕組みと、実際に「オイルが入らない」という珍しいエメラルドに出会った体験を交えて解説します。
エメラルドにオイル処理が必要な理由
エメラルドは「傷のない石はない」と言われるほど、内部にインクルージョン(内包物)や亀裂を含みやすい宝石です。これは結晶が生成される地質学的な条件そのものに理由があり、高圧下での岩石の変性によって、成長の過程でどうしても亀裂が入りやすくなります。
そこで古くから行われてきたのが、オイルや樹脂を石の内部に染み込ませる「含浸処理」、いわゆるオイル処理です。使われるのは主にシダーウッドオイルなど、エメラルドの屈折率(およそ1.57〜1.59)に近い物質。氷を水に沈めると輪郭が見えにくくなるのと同じ原理で、亀裂に屈折率の近いオイルを含浸させることで、傷を目立たなくしクラリティ(透明度)を高めています。
裏を返せば、無処理のエメラルド、いわゆる「ノンオイル」は非常に希少です。市場に出回るエメラルドのほとんどにこの処理が施されているのが実情で、オイル処理そのものは業界で広く認められた慣習的な処理といえます。
「オイルが入らない」エメラルドという珍しいケース
ここで一つ、実際に見たエピソードを紹介します。
宝飾卸をしていた当時、コロンビアへ直接買い付けに行っている業者から、現地仕入れの石を見せてもらう機会がありました。ある日、いつものように石を見せてもらった後、「今日は面白いのがあるんです」と出してきたのが、オイルが物理的に入らないエメラルドでした。
2カラットを超えるサイズで、色も深みも申し分ない。それでいてオイルが浸透しないという、通常なら考えにくい石でした。アメリカの鑑別機関が発行した証明書も合わせて確認しましたが、間違いなく無処理と鑑定されていました。
ルースケースから取り出す際には「ピンセットは使わないでください」と念を押されました。金属で触れて欠けさせてしまえば取り返しがつかないためです。当時の価格で2千万円という石で、査定の間はさすがに緊張したのを覚えています。ルーペで覗いても、見た目だけでは処理の有無は判別できません。それでも、その石が無処理のままで十分すぎるほど美しいことだけは分かりました。
「選んでノンオイル」と「入らなかったノンオイル」は別物
近年は希少価値という付加価値を狙って、あえてオイル処理をしないエメラルドも市場に出回るようになってきました。ただ、同じ「ノンオイル」という言葉でも、意味合いは大きく異なります。
- 選択としてのノンオイル:処理が可能な石だが、あえて処理を行わない
- 物理的なノンオイル:亀裂の少なさや結晶構造の違いから、そもそもオイルが浸透しない
後者は選択の余地なく無処理だった石であり、同じ言葉で語られがちですが、石の成り立ちとしてはまったくの別物です。質という点でも、両者を単純に比較することはできません。
エメラルドを選ぶときに知っておきたいこと
婚約指輪や結婚指輪でエメラルドを検討する場合、多くの流通品はオイル処理が施されたものです。これ自体は業界で認められた慣習であり、過度に敬遠する必要はありません。大切なのは、処理の有無や程度が鑑別書にどう記載されているかを確認し、納得した上で選ぶことです。
処理石であっても、色の深みや透明度、カットの美しさは石ごとに異なります。実際に見て、意味を理解した上で選ぶことが、長く愛用できる一石につながりますよ(^^)